相続した土地、一度も見たことがない…VR技術で「現地に行かずに現況確認」の新時代

土地問題の現場から

「遠方にある土地を相続したけれど、実際に見に行ったことがない」「現地がどんな状態なのか、想像もつかない」──そんなお悩みに接し、相続土地なんでも相談所では、VR技術を活用し、東京島嶼部にある相続土地の現況を立体的にお伝えする研究を進めています。

今回は、VRゴーグル「Meta Quest 3s」を使った3D空間キャプチャの検証を行いました。

実証実験の様子(動画)

今回の実証実験では、Meta Quest 3sとMeta Hyperscape Capture(ベータ版)を使用して、実空間をキャプチャしてVR空間に再現するテストを行いました。以下の動画で、実際の操作手順とキャプチャの様子をご覧いただけます。

なぜ「相続土地の現況確認」が難しいのか

島嶼部の相続土地の問題において、最初の大きな壁が「現地の状況がわからない」という点です。島嶼部にある土地の場合、交通費・宿泊費・時間的負担が大きく、訪問コスト自体が高額になります。また、住所だけでは実際の位置や境界が不明であることも多く、現地に到達すること自体が困難な場合もあります。

さらに、平面的な写真では地形の起伏や立体構造が把握しにくく、現地の雰囲気を十分に伝えることができません。一方で、従来の測量機器による3Dスキャンは数十万円から数百万円のコストが発生するため、初期調査の段階で導入することは現実的ではありません。

安価なコンシューマ向けのVRゴーグルを活用することで、これらの課題を解決することができるのではないかと考えています。

実証実験:Meta Quest 3s × Meta Hyperscape Captureで実現する3D空間再現

使用した技術・機器

今回のテストで使用したのは、以下の技術とハードウェアです。

項目内容
ハードウェアMeta Quest 3s(価格:約4万円)
ソフトウェアMeta Hyperscape Capture(ベータ版)
センサー技術TOF(Time of Flight)センサー ※距離を測定する光センサー
3D再現技術3D Gaussian Splatting ※点群データから滑らかな3D映像を生成
演算方式クライアント・サーバ型(Metaのクラウドサーバで処理)

実証実験の詳細

  • スキャン対象: 金刀比羅宮(複雑な地形・建築物を含む環境)
  • スキャン時間: 約15分
  • 作業内容: VRゴーグルを装着し、対象エリアをゆっくり歩きながら空間をキャプチャ
技術的な特性と操作上の注意点

Meta Quest 3sに搭載されたTOF(Time of Flight)センサーは、測量専用機器のLiDAR(Light Detection and Ranging)とは異なる特性を持ちます。TOFセンサーの測定可能距離は数メートル程度であり、遠距離の物体はスキャン対象外となります。そのため、対象物に近づいてゆっくりスキャンする必要があります。

測量用LiDARスキャナーが数十メートル先の物体も高精度で測定可能であるのに対し、TOFセンサーは近距離に特化していますが、その分手軽さと低価格が大きな利点となっています。

再現品質の技術的評価

今回の実証実験では、わずか4万円の機器で実現できる3D再現品質に驚きました。「現況を視覚的に共有する」という用途としては十分なクオリティであり、VR空間内で立体的に現地を体感できる臨場感は、平面写真では決して得られないものです。

一方で、技術的な課題も明確になりました。スキャンできない部分や適さない素材では、3D Gaussian Splatting特有のモデル破綻が発生します。また、測量専用機器のような座標情報を持った点群データではなく、現時点ではファイルとしてダウンロードすることもできないため、二次活用が制限されています。

相続土地調査への応用シナリオ

現時点で技術的に実現可能なこと

現在の技術レベルでも、相続土地調査において実用的な活用が可能です。まず、現地に行けない相続人が、VRゴーグルを通じて立体的に現況を確認できます。平面写真では伝わらない地形の起伏や樹木の配置を把握することで、土地の具体的なイメージを持つことができます。

また、複数の利害関係者が同じVR空間を体験することで、共通認識を形成できる点も重要です。言葉だけでは伝わりにくい現地の雰囲気を、関係者全員が同じように体験することで、その後の協議がスムーズに進む可能性があります。

今後の技術的発展可能性

現在のHyperscape Captureはベータ版であり、今後のアップデートや技術発展で様々な機能が実現される可能性があります。特に期待しているのは、スキャンデータへのGNSS(GPS)情報の付加です。位置情報が統合されれば、正確な座標管理が可能になり、測量データとしての有用性が大幅に向上します。

また、点群データのダウンロード機能(PLY形式等)が実装されれば、二次活用や専門ソフトでの解析が可能になります。距離・面積の計測ができるようになり、測量精度も向上するでしょう。

最終的には、こういったVR機器で、法的に有効な測量成果とVR体験の両立ができることを期待しています。

測量技術のパラダイムシフトの予感

従来、3Dスキャン・測量には高額な専用機器が必要でした。地上型レーザースキャナーは数百万円から数千万円、ドローン搭載LiDARは数十万円から数百万円、トータルステーション(TS)も数十万円から数百万円という価格帯です。

それが、わずか4万円のVRゴーグルで3D空間のキャプチャができる時代になりました。技術的な制約はまだありますが、安価なVRデバイスにより、一般の方でも簡単に3Dデータを取得できる環境が期待されます。

特に、Meta Quest 3sとHyperscapeの組み合わせは、VRゴーグル単体で表示とスキャンが完結するため、持ち運びや現地作業の負荷が大幅に軽減される点は大きなメリットです。将来的にGNSS情報の付加やPLY形式でのダウンロード機能が実装されれば、測量分野におけるパラダイムシフトが起きる可能性があります。

コストパフォーマンスの革新性

今回の実証実験で最も注目すべき点は、わずか4万円で購入できるMeta Quest 3sで、ここまで手軽に高精度な3Dスキャンができることです。

従来の専門的な3Dスキャナーは、価格帯が数十万円から数百万円であり、専門知識が必要で、大型で持ち運びに制約がありました。一方、Meta Quest 3sとHyperscapeの組み合わせは、価格が約4万円と格段に安く、操作が比較的容易で、コンパクトで持ち運びも可能です。さらに、クラウドサーバ側で演算処理を行うため、デバイス単体で完結する点も大きな利点です。

この価格帯でこのクオリティが実現できることは、技術革新として非常に意義深いと考えています。

まとめ:技術研究の現在地と今後の展望

「行ったこともない、見たこともない土地」を相続した方にとって、最初の課題は「現況の把握」です。最新のVR技術を活用することで、遠隔地の土地を立体的に体験し、具体的なイメージを持つことが可能になります。

相続土地なんでも相談所では、今回ご紹介したVR技術等の実証実験を通じて、相続土地問題の新しい解決アプローチを模索しています。技術的な制約はまだありますが、今後の発展可能性は非常に大きいと考えています。

「東京島嶼部の相続した土地をどうすればいいかわからない」「現地の状況を確認したいが遠方で行けない」──そんなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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